豊岡演劇祭観劇日記 DAY3 9月21日(月・祝)
▼to R mansion『DIVE/JOURNEY』
ジャグリング、手品、パントマイムやダンスなどのパフォーマンスを物語(のようなもの)で連ねた「フィジカルシアター」。過去に観た『にんぎょひめ』『The Wonderful Parade』とより物語要素強めの作品よりも今回の方が面白く観れた。というのも、物語要素が強いと物語の合間にパフォーマンスが(なぜか)挿入されているという印象がどうしても拭えないのだが、今回くらい荒唐無稽な話(とも言えない話)の転がし方だとパフォーマンスが次の展開を呼び込んでいる感じが強く、個々のパフォーマンスが生き生きとして見えたからだ。
会場の体育館には家族連れが多く(観客として私はやや浮いていたが)きちんとリーチするべき層にリーチしている印象。ただ、後から確認してみると演劇祭のウェブの作品紹介には抽象的な文言が並んでいて、子供も楽しめるパフォーマンスであることはわかりづらいような気も。とはいえ演劇祭のラインナップにこういう作品が入っていることの意義は大きい。同じ時期のプログラムの中に子供も楽しめるパフォーマンスがもういくつかあるともっと多くの人にフェステイバル感を感じてもらえるように思う。
▼京極朋彦ダンス企画『竹野町 猫町ウォーキング』
兵庫県最北端に位置する猫崎灯台と猫崎半島を抱え、多くの猫が住まう町、竹野町。作品のリサーチで竹野を訪れた京極朋彦は萩原朔太郎の小説『猫町』を思い出したという。『猫町』の主人公の人間は猫人間の町に迷い込んだが、『竹野町 猫町ウォーキング』の参加者は(なぜか)猫人間になり(=猫耳付きのフェイスシールドをかぶり)竹野の町を歩き回る。狭い路地を歩いているとどこからか聞こえてくるチェロの音。ふと左手を見ると路地の先に広がる海を背景にチェロを弾いている女がいる。神社で神主の祈祷に合わせて舞う白猫。漁の道具が置かれた倉庫で見たことのない楽器を弾く男。そして猫人間を先導するように現れる黒猫。導かれた砂浜では暮れゆく空と海を背景に奏でられる音に白黒二匹の猫が舞う。
特に物語的なものがあるわけではなく、ダンス企画の名に反してダンス要素も少なめだったが満足度は高い。ルートとして選ばれた路地はのんびり歩くのにいい風情だったし、パフォーマンスも控えめながら場所の魅力を引き立てていた。何よりよかったのは、多くの町の人がこの作品をそれなりに肯定的に受け入れているらしいことが感じられたことだ。なんせ、我々猫人間が進む路地の先々で町の人が待ち構えているのである。人間界に迷い込んだ猫人間たち(とはつまるところ演劇祭に関わる人々のことでもある)を、町の人は興味深そうに見ていた。砂浜でのダンスには子供を中心に多くの観客が集まり、終演後の投げ銭も盛況であった。ひとりの観客として楽しんだし、演劇祭のフリンジプログラムとしてもいい仕事をしていたと思う。
▼青年団『思い出せない夢のいくつか』
女優・由子(兵藤公美)とマネージャーの安井(大竹直)、付き人の貴和子(南風盛もえ)。地方での仕事からの帰り、電車のボックス席での当たり障りない会話は、由子がタバコで席を外すと不穏な空気を帯びはじめる。どうやら安井と貴和子は男女の関係にあるらしい。由子も実はそれに気づいていて——。
「大人のための『銀河鉄道』」とキャッチコピーが掲げられたこの作品は宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、内田百閒『阿房列車』に着想を得たものだという。たしかに『銀河鉄道の夜』のエピソードが引用されたりはするのだが、観客の興味の中心は「三角関係」の行方だろう。平田オリザの戯曲の書き方の基本ルール(?)のひとつに「その場にいない人の話をする」というのがあるが、タバコや買い物でひとりが席を立つ度に残る2人のあいだで「秘密の」会話が交わされ、そこから3人の関係が徐々に浮かび上がってくる様はサスペンスフルであると同時にほとんどシステマティックでさえある。ほとんど「何も起きない」のに観客の興味が持続するのは情報開示の巧みさと、関係の順列組み合わせのような場面場面で異なる表情を見せる俳優の技によるものだろう。俳優の演技を堪能した。
豊岡演劇祭2020
開催期間:2020年9月9日 - 9月22日
公演プログラムやフリンジについては下記ホームページをご覧ください
https://toyooka-theaterfestival.jp/