豊岡演劇祭観劇日記 DAY4 9月22日(火・祝)
▼青年団『眠れない夜なんてない』
2008年初演。マレーシア、クアラルンプール近くのリゾート地に移住し悠々自適な日々を過ごす日本人とその地を訪れる人々を描いた群像劇。今回の再演に合わせて初演時にはなかった「昭和の最後の日々」という設定が導入され、「自粛」というキーワードで現在の日本の状況とも響き合うものとなっている。日本を離れマレーシアにやってきた彼らだが、逃れきれぬしがらみもあり、やがてそれぞれが抱える事情が明らかになっていく——。
学生時代のイジメ、夫婦間の経済支配、戦争における国と国民、加害国と被害国との関係。この作品では「加害者の無自覚」が様々な形で描かれる。終盤、年配の男が国に帰らない理由を「日本が嫌いだから」だという場面がある。戦争のときに国から受けた仕打ちが忘れられないらしい。だが、「国に捨てられた」という彼らは間違いなく他国に対しては加害者なのであって、その彼らが被害国であるマレーシアで悠々自適の「余生」を過ごそうとするのはいかにもグロテスクだ。彼らはあまつさえ軍歌を歌って盛り上がりまでする。タイトルの『眠れない夜なんてない』は無自覚な加害者が発する残酷な言葉だ。被害者の過ごしてきた眠れない夜に彼らが思い至ることはない。
私はこの作品を観て、現在の日本の「惨状」を招きながら自らは富を蓄積し海外へと逃れ「日本が嫌いだ」という先行世代の姿に対し強い不快感を覚えた。しかし、現在の日本に対する責任は18年間選挙権を行使してきた私にも間違いなくある。「国に捨てられた」という彼らの「身勝手さ」はたしかに、現在の日本という国に対して強い不満を抱く私自身のものでもあり、だからこそより一層彼らの姿はグロテスクに映るのであった。
▼山川陸『三度、参る』
フェスティバルセンターを出発し江原駅前を経由して円山川沿いの道路を歩き河川敷に至るフィールドワーク。江原駅に着いたときから駅前の建物の多くが随分とかわいらしいロッジ風であることは気になっていたのだが、スキーリゾート神鍋への中継地として町が栄えた歴史が背景にあったらしい。町を流れる水路を追うようにして川沿いの(しかしコンクリート壁で川は見えない)道へ。
フィールドワークのメインの舞台はこの川沿いの道400メートル。参加者は測り手・押し手・書き手に分かれ、道沿いのモノを計り手が自らの身体(手や肘、身長、歩幅)を使って計測し、押し手が押す移動式の書き込み台に書き手がそれを記入していく。役割をローテーションして3セット。普段とは違う尺度でモノを見、他の参加者が何を選んでどのように測るのかを知ることは単純に楽しい。3セットが終わったところで河川敷に降り、町中を流れていた水路の出口とコンクリート壁の川側、そして神鍋高原を眺めて終了。
町の解説もフィールドワークも面白かったのだが、両者がやや分離気味なのは気になった。遠景の神鍋高原とすぐ目の前の町という対比、あるいは視線の往復も感じられなくはなかったが、フィールドワーク自体の面白さは目の前のモノを見ることよりも普段は使わない「物差し」を使うことに宿っていたようにも思われる。ほぼ同じフォーマットを使ったフェスティバル/トーキョー19のJK・アニコチェ×山川 陸『Sand (a)isles』)(レビューはこちら)ではフィールドワークを通して見えていなかった町の姿が見えてくる感覚があったこともあり、少々物足りなさが残った。町に関するレクチャーが面白かっただけに、そこともう少しつながる部分があってもよかったのではないだろうか。
▼おわりに
3泊4日で9本のプログラムに参加した。全体では30本以上のプログラムが実施されているので参加できたのはその3分の1以下ではあるのだが、体験できた範囲で演劇祭全体への感想を述べてこの観劇日記の締めとしたい。
新型コロナウイルスの影響で規模を縮小しての開催となったことは残念だったし、その中で最善が尽くされたものとは思うが、やはり芸術祭としてはこの規模では物足りなさが残る。メインプログラムの「身内感」、エンタメ寄り/実験的/子供向け/ダンスなどとジャンル別に見たときのそれぞれ本数の少なさ、地域別に見たときの各地域の上演本数の少なさ。バリエーションを楽しむにせよ、自分が好きなジャンルを楽しむにせよ、観光と合わせて楽しむにせよ、今回は選択の幅が限られてしまっていた。市内の移動にけっこうな時間がかかるため、特に地域別の上演本数に関してはこの倍はあってもいいくらいだろう。私のように演劇祭のプログラムに参加することを主な目的として豊岡を訪れる客がどれくらいいるのかはわからないが、一つの地域で参加できるプログラムの本数が増えればそこに滞在する時間が長くなり、それだけその場所で使うお金も多くなる。今回の滞在では移動の方にかなりの時間を割くことになってしまった。演劇祭がメインの目的でない観光客に対してはなおさら、選択の幅は多い方がよいことは言うまでもない。
一方、フリンジも含めて個々のプログラムの満足度は高かった(個人的にはもっとわけのわからないプログラムも入っていていいとも思うが)。上記の物足りなさはないものねだりではある。来年以降の演劇祭が当初予定されていた規模感で開催されることを切に願う。
豊岡演劇祭2020
開催期間:2020年9月9日 - 9月22日
公演プログラムやフリンジについては下記ホームページをご覧ください
https://toyooka-theaterfestival.jp/